lib14's TRPG library

TRPGに関するメモや随想など

サプリが品薄になっていることを憂う

 2016年に改訂版が出た。改訂版はデキがいい。有用なスキルが選択されているし、ワールドセクションもきちんと改訂されていて、大事な情報が詰め込まれている。だが「次に」買うべきサプリがないのが悲しい。

 『上級ルールブック』は良いサプリだった。『基本』で遊んだ新規参入者が「次に」買うべきサプリとして明確だった。必要なルールがあって、スキルとアイテムの追加データがバランスよく載っていた。更に称号クラスまで遊ぶことができた。

 今の環境にはそういうサプリがない。『SKG』にも『ITG』にもスクウェアルールがない。『EXB』を入れたら3冊買わないといけない。軽い気持ちで次に進めないのだ。おまけに『SKG』も『ITG』も入手が難しくなっている。Amazonでは定価より高く取引されている。『SG2』の高騰ぶりは笑うしかない……。

 『EXB』のあとがきでデザイナーが『EXB』は「「上級ルールブック」の後継とは呼べない」と書いていたけど、その通り。『上級』は参照性が悪いながらも、ガチ勢じゃない人に安価で質の高いプレイ環境を提供していた。サンプルキャラもいいけど、スタートセットもいいけど、やっぱり『AR2E』はキャラビルドが醍醐味だと思う。その醍醐味を堪能してからでないと、深みに嵌れない。どのスキルに、どの組み合わせにと迷っている時間が楽しいのだ*1

 『SKG』『ITG』から幾つかのデータを再録して、『EXB』から幾つかのルールを再録したようなサプリがあれば理想だ。ファンとしては少なくとも『SKG』と『ITG』の再販を切望する。

*1:そういう意味で『SG2』は魅力的なサプリだ。地域クラスは癖があり、プレミア感があって良い。今の段階ではアルディオン大陸限定になるが、『サガ・クロニクル』ならば『SG2』と同じ地域クラスが掲載されていて価格的に入手しやすい。

ロールプレイ重視卓

卓募集などでよく見かける「この卓はロールプレイ重視卓です」という表記。
これが一体何を意味しているのか、分かるようで分かりません。

今回は「ロールプレイ重視卓」の意味について、幾つかの場合に分けて意味を考えてみることにしました。

攻略を重視しない卓

 ロールプレイ重視という言葉が、「ゲーム性重視」と対比される概念だとするならば、ロールプレイ重視卓は、目的を達成するために常に最適行動をとること*1を卓の合意事項としない……という含みをもちます。
 要するに、効率の悪いキャラビルドを許容する態度や、戦術上の判断ミスを笑って許す態度が求められるという意味です。強いか弱いかでキャラクターを作成するのではなく、好きなキャラクターを作ることが尊ばれます。難易度は低めに設定されていて、勝つか負けるかのギリギリの戦いを楽しむのではなく、好きなキャラクターでそこそこの難易度の冒険をして、満足する卓を指向しています。暗に「ガチ勢は参加しないでね」と言っています。

キャラクターを演じる卓

 それぞれが個性的なキャラクターを作成し、GMはキャラクターの個性が生きるようなシチュエーションを用意します。キャンペーンプレイでは、プレイを積み重ねていく中で、プレイングの中に徐々にキャラクター性が滲み出てくるものですが、そうではなく、公式リプレイのように、予め各プレイヤーが担当するPCの個性を打ち出すところがキャラクターを演じる卓の特徴です。
 キャラクターを演じる卓では、キャラクターの設定について丁寧にGMや他のプレイヤーと打ち合わせをすることが想定されます。セッションの第0回として「キャラクター作成回」を設けて、互いに相談し合える環境で、戦闘能力だけでなく、キャラクターの来歴や性格、立ち位置などについても相談します。掲示板でやり取りをするケースもあります。いわゆるハンドアウトを使えば、ある程度はこれに近いプレイングができますが、ロールプレイ重視卓ではもう少し踏み込んだ形で打ち合わせが行われるはずです。*2キャラクターをゲームの駒としてしか見なさない態度は忌避される傾向にあります。

世界観を楽しむ卓

 世界観を楽しむ卓では、そのシステムが想定する世界観に浸ることが指向されます。ホラーものなら、ホラー小説の登場人物らしい行動様式が望ましく、ファンタジー世界なら、プレイヤーはエルフならエルフらしく、ドワーフならドワーフらしく振る舞うことが期待されます。世界観から逸脱した「変なキャラクター」は忌避される傾向にあります。
 世界観を楽しむ卓は、そのシステムの愛好者、あるいは、そのジャンルの作品を好きな人たちが、非日常体験に没入し、その世界観のことが好きな気持ちを共有するための卓です。その世界観に対して敬意を払えない人は参加すべきではないし、その世界観をよく知らない人は楽しめない可能性があります*3*4
 私の主観から言えば、専ら「世界観を楽しむ卓」を「ロールプレイ重視卓」と表現するケースは稀だと思いますが、こういったニュアンスを含んでいるケースはあり得ると思います。

リアル交渉やはったりを推奨する卓

 問題解決手段として、ダイスを使って判定するよりも、プレイヤーの力量で交渉やはったりを行い、状況に合致しているかどうかをGMが判断するタイプの卓があります。通常、交渉技能が設定されていないシステムでは、交渉が行われる場面が想定されていないはずですし、交渉技能が設定されているシステムでは、ダイス等によって交渉の成否が判定されることが想定されているはずなので、プレイヤーの力量によって交渉を行うことは、(そういうシステムでない限り)GMがそのように仕向けなければ成立しません。
 各プレイヤーのリアル交渉能力が想定可能な顔なじみのプレインググループ以外の場面でこうした裁定基準を持ち出すと、公平さが担保できない(楽しめない人が何人か出てくる)という問題が発生します。十中八九「地雷卓」だと思って間違いないでしょう*5

*1:ロールプレイと同様に「ゲーム性」という言葉も多義的です。ここでは「目的を達成するために常に最適行動をとる」という表現をしましたが、ロールプレイの対比になる用語としては意味が狭いことは自覚しています。例えば「新しく発売されたサプリに載っているスキルを試したい」とか「街に戻ってみると裏切りそうだった依頼人があっさり死体で発見された」みたいな状況はゲーム的なシチュエーションでありながら、「最適解」を目指すプレイングとは異なる方向性をもったTRPGの楽しみでしょう。しかし、こうしたギミック系(?)は一般に「ロールプレイ重視」といった場合に対比されるシナリオ傾向とは違うように思えるのです。

*2:キャラクターを演じる卓のバリエーションに「創作重視卓」があります。セッション中、GMのシナリオに付け足す形で、その場でお話を思いついて、皆で物語を創っていく感じの卓です。それぞれのプレイヤーが専ら各PCを演じるというよりも、全体的なストーリーに目を配って、シーン開始時にプレイヤーどうしで打ち合わせをしたり、GMに「こういうシーンを作りたい」と提案したりして、物語の共同執筆者のような立場からセッションに参画します。ルーリングに関してはGMが担当しますが、プレイヤーは例えばゲーム性とは無関係なエキストラの演出などを勝手に行うことが基本的には許されます。
 また「決断重視卓」というのもあります。PCに対して、キャラクターとしての決断を迫る感じの卓です。よく考えられたシナリオの場合、キャラクターとしての決断が物語を左右していく感覚が味わえ、魅力的で遊び堪えのあるセッションになるはずです。一方で、セッションの行く末をプレイヤーの自由意思に放り投げて、GMはプレイヤーの決断した結果を機械的に処理するだけの卓においては、物語としての価値は生まれにくく(ドラマチックではない)、うまく噛み合わないことが多いです。そうなれば決断することの意味が薄らいでしまうでしょう。

*3:上手なGMならば、自分が好きな世界観を布教するために、非常に手の込んだやり方で初心者でも楽しめるセッションを提供してくれますし、そういう卓は自分の世界を広げてくれる、忘れられない卓になるはずです

*4:世界観を楽しむ卓の亜種として、「そのシナリオの世界観」つまり「シナリオの背景設定」を楽しむという傾向もあるかも知れません。失踪した依頼人を捜し出す過程で、依頼人の正体や事件の全容が浮き彫りにされていくようなシナリオ。もはやPC自身のロールプレイとは無関係ですが、「ストーリー重視」のことを「ロールプレイ重視」と表現することも稀にあります。

*5:身内のノリで楽しんでいる様子を伝えるリプレイやプレイ動画の中には「リアル交渉」裁定をするものがあるかも知れません。リプレイのノリが全てだと受け止めている人にとっては、公平に感じるかも知れません。

シナリオづくりシートの活用

 プリントオンデマンド版のサービス開始によって、永らく入手困難だった『りゅうたま』の紙ルールブックが手に入れやすくなりました。しかも価格はJIVE版よりも廉価です*1

 久々にJAVE版の「帯」を発見してみると、こんなことが書いてありました。

プレイヤーは「旅人」に、
ゲームマスターは「竜人」に
4つのGM用キャラクター種族&3つのシナリオづくりシートで
初心者GMも楽しくゲームに参加できます!

……思えば、シナリオづくりシートは、シナリオをつくるのに便利なツールで、ちょっと工夫すれば別のシステムでも応用できる優れた雛形なんですね。ルールブックp.116, 117に基本的な事が書かれているので、そこは読み終わっていることを前提にして、個人的な意見を書いていきたいと思います。

ガイドライン補足

  • ルールブックをざっと読む

 付箋を貼っておくべきページは、りゅうたまの心得が参考になる。

  • 仲間を集めてサンプルシナリオを遊ぶ

 仲間が集まりにくいとか、サンプルシナリオは遊び尽くされている*2とかで「サンプルシナリオを遊ぶ」ことがやりにくいと感じている人もいるはず。リプレイとか動画とかを見て、流れを把握してみるというのも手ですね。

  • やってみたいシナリオのネタを集める

 『りゅうたま』は特定の世界設定がないRPGと思われがちですが、旅するための特定のワールドマップが存在しないだけです。魔法、アイテム、モンスターなど、極めてユニークな世界設定があります。特にモンスターについては、p.117の「出現モンスターの強さの目安」を参考にしながら、作ろうとしているシナリオの対象としているPCのLVに合ったモンスターを選び、そいつの「解説」を読むことでシナリオのヒントになります。そのモンスターと戦う場合、PCたちは何故戦うのか、理由を考えます。モンスターが悪さをしているのなら「討伐シナリオ」になるでしょうし、そのモンスターから稀少な食品や薬品の材料が採取できるなら「探索シナリオ」になるでしょう。単に、旅の道中で襲われるだけなのかも知れません。

  • やりたいシチュエーションを聞く

 『りゅうたま』にはプレイヤーからのフィードバックを回収するためのルールがあります。「街づくり」では、GMも含めた参加者全員で街の設定について話し合います。「街づくり」は単に街を作って終わりではなく、冒険の舞台・物語の舞台を作ることに他なりません。ですからプレイヤーはなるべく自分のPCが活躍できるような舞台になるように仕向けた方がセッションが楽しくなるはずです。あるいは、他のPCやNPCに対する「こういう活躍をして欲しい」という願望を、街づくりを通して伝えることができます。つまり「街づくり」におけるプレイヤーの発言には潜在的にプレイヤーの要望が含まれているとみることができるのです。ただし、要望の全てを受け入れるのは難しいでしょう。「旅日誌」からもプレイヤーのニーズを読み解くことができます。好意的に書かれているシチュエーションは、だいたい、プレイヤーにとっても好みのシチュエーションであるはずです。

シナリオ構成シート

 慣れてくればシナリオ構成シートだけでセッションは回せます。シナリオ構成シートに少し工夫を加えて、メイン・イベントとサブ・イベントの間あたりにもう一本縦線を引いて、「地形+天候」という項目を作ります。こうすると、だいたいどの辺りでどの地形と天候がPCたちを襲うのかが分かるわけです。街で受けられるサービス〔天気予報〕などをPCが利用した場合でもすぐに参照できます。

シナリオ目的シート

 重要なのは「PCが~~したくなる動機・理由」という部分です。

イベントシート

 個々のイベントについてこだわって作りたい時に利用するシート。例えば全てのイベントについて書かなくても、「クライマックスのイベントだけ書く」とか「竜人と出会うシーンは本気で描写したい」といった感じで、肝心な部分だけ活用するのも手です。

*1:印刷の質はJIVE版と比べて落ちますが、ペーパーバックで紙が厚くないので、JIVE版よりもやや持ち運びに便利です。

*2:僕も4回ぐらい遊んでいますが、問題ありません。

味方の支援を計算に入れるのを忘れたくない

管理漏れというリスク

 シナジーの多いスキル構成にして、能力は割り切れる値にして技能ボーナスを稼いで、このサプリとあのサプリのアイテムを組み合わせてダメージを上げて…………。
 必死にキャラメイクしたものの、実際のセッションの時にはスキルの使用を忘れたり、アイテムのボーナスを忘れたり、味方からの支援を計算に入れるのを忘れたりして、本来出せるはずのダメージ*1が叩き出せないという事態によく陥ります。私はそんなうっかり屋さんです*2
 スキル、アイテム、種族特性……こうしたデータをいっぱい組み合わせることでPCは強くなります。けれど、組み合わせる量が多くなるほどに、管理しきれなくなります。こうした管理漏れ格闘ゲームに喩えればコマンド入力ミスです。コンボが決まらないわけです。キャラクターのデータ複雑度が上がれば上がるほど、管理漏れのリスクは高まり、結果、理想通りのダメージが入りません。
 つまり、管理漏れリスクが少なくなるよう、キャラメイクにおいてはデータ複雑度にも配慮しないといけないわけです。特に他のPCから支援を受けてパワーアップする計画を立てているならば、よりデータ複雑度は増します。

プレイングスキルへの過信

 格闘ゲームではコマンドミスを警戒するでしょう。スポーツなら尚のこと、スタミナとか、ボールを運ぶ技術とか、チームワークのためのコミュニケーションとかを訓練しないといけません。「ゲーム」を日本語に訳すとき「競技」と訳す場合があります。ゲームにはプレイヤーのスキルが求められるのです。
 しかし原則的に熟考が許されているTRPGでは、プレイヤーは「操作ミスをしない」ことを前提に考えてしまいがちです*3。しかし例えば4時間のセッションであれば、途中、休憩を挟むにせよ、その時間の間、集中力を持続させ、計画通りにプレイングを遂行するには、確かなプレイングスキルが必要です。もっというと、知的鍛錬とか、ゲーマーとしての基礎体力*4みたいなものが必要なのです。
 仕事でたっぷり疲れてきてから遊ぶ平日夜のセッションで、PCの能力を最大限に活かせる高度な配慮*5を持続させることができるか、不安があります。
 つまり「フル回転できない自分」を想定できないことが、「忘れ」の原因なのです。

忘れたくない!

 「管理漏れがないように気をつける」というのはある種の根性論であって、具体的に何に気をつければ管理漏れが防げるのかが分かりません。とは言え「ゲーマーとしての基礎体力がないうちは、難しいコンボには挑戦するな」という寂しい結論に辿り着きたくもないですよね。
 じゃあどうするか。

  • データ複雑度を下げる (リスク回避)

 具体的には演出として頭の中でイメージできる範囲にとどめておく。データと演出を1対1対応で覚えておくと記憶しやすい。

  • ダメージ表などを作成する(リスク軽減)

 味方の支援を受けた場合と受けなかった場合で場合分けをするなど、幾つか想定されるパターンごとに予め計算結果を書いておく。

  • お互いに声を掛け合う(リスク転嫁*6

 支援をかけた側が、かけられた側のターンにおいて、支援分をダメージ計算に含めるように促す。また皆で覚えておくようにする。

  • コンボはロマンじゃ(リスク受容)

 管理漏れなど恐れない。キャラ愛があれば腹をくくれる。

*1:回復役なら回復量ということになります。つまりもっと一般的な言い方をすれば「パフォーマンス」です。

*2:「あ、そういえば、○○乗せるの忘れてた」と言ってはGMに泣きのお願いをします。GMのときもよくやります。

*3:戦闘マップ上のキャラクターコマ(フィギュア)を少しでも動かしたら行動の巻き戻しはしない、という裁定を下す厳しめのGMは、操作ミスに対して厳しいGMです。この立場はスポーツ的にプレイヤーの知的スキルを重視する立場ですね。

*4:何度もセッションを重ねることで、細かいところも色々と覚えきます。これがそのゲームをプレイする上での基礎体力になってゆくわけです。

*5:細かい宣言を忘れずにやっておいて、正しくダメージ計算すること

*6:本来の意味とは違いますね(笑)

交渉の裁定について

 NPCとの交渉を技能やアビリティではなく、ロールプレイ(口プロレス)によって解決するという考え方についての考察。

基本的なスタンス

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 上の図は卓の状況と交渉の解決方法を対応づけたものです。GMはシステムの性格と、シナリオの価値を理解したうえで、プレイヤーの状況やセッションの残り時間等に合わせて適切な裁定(どのルールを使用して状況を解決するかを決定)をするのが理想です。そこで私なりの裁定基準を表にしてみようと試みました。もちろん、他の状況がそれを許さない場合もあるでしょうけれど*1、とりあえず、こんなふうに考えていますという表です。
(図中*1)交渉をロールプレイで解決する場合、NPCの立場の一貫性や、プレイヤーにロールを把握させるプロセスの計画が大切。
(図中*2)交渉をロールプレイで解決させる場合、「判定」に慣れたプレイヤーとの間のギャップを埋める工夫が大切。

口プロレス

 口プロレスは楽しいものです。私は一定の条件下では寧ろ、口プロレスは推奨されるべきであり、セッションの良いスパイスになるとさえ思っています。口プロレスの良さとして

  1. キャラメイクが苦手でもコミュ力でカバーできる
  2. 状況を打破する手立てがない時の救済措置になる(特に昔のシステム)
  3. プレイヤーの「知恵」で状況を打破したというカタルシスが得られる
  4. GMがどこまで認めてくれるかスリリングな駆け引きが楽しめる*2

 といった点が挙げられるでしょう。しかし、一般的に言われているように、交渉技能等が実装されているシステムで敢えて口プロレスをする行為は「狡い」とか「マナーが悪い」といった印象をもたれる可能性もあります。
 交渉技能など、交渉のためだけに存在するルールが実装されていないシステムを幾らか例を挙げられるでしょう。そういうシステムで、折角交渉が得意なキャラクターを作成したのにロールプレイで解決しろと言われたら、損した気分になります。ただし、キャラメイクのうまいマンチばかりが活躍してしまう*3という状況を打破する一つのやり方としては冴えています。ルールに基づく公平性か、みんなで楽しくやる平等感か、状況によって違います*4

その他補足

 TRPGには大雑把に言って、問題解決指向の遊び方と、物語創造指向の遊び方があると思っているのですが、問題解決指向、つまり敵を倒したり謎を解いたりすることに価値を置く遊び方の場合、ロールプレイによる交渉解決は「常に口がうまいプレイヤーが活躍する」状況をつくってしまって不平等感を生みます。だたし、全てのプレイヤーの口の上手さがだいたい同じぐらいで、ちょうどいいライバル関係が成り立っている場合は例外です。そういう場合は、お互いが刺激しあって、よいセッションになるはずです。
 またシミュレーショニスト*5の立場からすると「知力が低いキャラが交渉がうまいのはおかしい。もっとお馬鹿なロールプレイをするべきだ」という批判が出てくることになります。ゲーミスト*6からすれば「知力判定は苦手だから別の戦略、つまりロールプレイによる解決を試みただけ」なのですが、シミュレーショニストからすれば気持ち悪いのです。「なぜあなたは知力が低いのに、今のような高等な言いくるめができるのですか?」という質問に答えられなければなりません*7
 一方で物語創造指向の遊び方、つまりキャラクターらしさを強調し、物語が完成する過程に価値を置く遊び方の場合、技能による解決は「折角キャラクターらしさが表出する場面なのに、ただダイスを転がすだけなんてドライ過ぎて面白みがない!」と思うはずです。特に自作シナリオを作ることができるGMは物語の創造に適性や興味がある人が多いです。そういうわけで、プレイヤーに対して「交渉は技能じゃなくてロールプレイでやってください」と要求したくなるのです*8。結論から言えば「人を選べ」あるいは、「無理強いをするな」さもなくば、「やるならちゃんと着いてこられるように綿密に計画して手順を踏め*9」ということになります。

*1:その最たるものは自分の能力の限界だったりしますよね。

*2:意外と忘れがちな観点です。ルールに対してまじめで杓子定規な感じのGMに仕掛けると嫌がられる可能性が高いので、初見さんには仕掛けない方がよいと思います。

*3:キャラメイクのうまさによって活躍できる/できないが大きく変わるシステムもあれば、適当に作ってもそこそこ活躍できるキャラが作れるシステムもありますね。

*4:ルールを読み込むのが得意な人は「ルールで戦いたい」と思っているし、コミュ力のある人は「GMを言いくるめたい」と思っているわけで、結局の所、自分の得意なフィールドで戦いたいと思うのはどちらの側も同じです。「どちらの方が客観的にフェアか」という議論は不毛で、「ここに集った皆にとって最善は何か」とか「GMとしてどの種類のフェアネスを貫きたいか」という意思決定問題こそが本質です。そしてGMを含めた参加者は有耶無耶にせず、自分の思いを伝えることが大事です。

*5:Ron EdwardsのGNS理論において、ゲームの設定において何が最も現実的かという判断を行動原理とする人。

*6:Ron EdwardsのGNS理論において、問題を最も効率的に解決する方法は何かという判断を行動原理としている人。

*7:これを「納得させた者勝ちじゃないか」と言って批判する向きもあるのですが、かっこいいロールプレイをした人にリソースが配られるシステムが「かっこいい物語」を指向しているように、納得させられればOKという考え方は、「状況がイメージできること」を指向しているに過ぎません。シミュレーショニストにとって、現実味のないルールよりも、主観的に想像可能であることの方がはるかに重要なのです。問題はシステムがどの方向を向いているか、参加者がどの方向を向いているかという事です。

*8:市販のリプレイは読者に読ませるためのコンテンツなので、プレイヤーにロールプレイを強制することが許されます。プレイヤーはそうであることを前提に卓への参加を承諾したはずだからです。リプレイでのGMの振る舞いを「プロの人がやっている事だから」と無批判に踏襲してしまうと、実際のセッションでは通用しない場合があります。もし物語創造を楽しみたいのであれば、リプレイにおいて前提となっている「隠された合意」を「可視化された合意」にする必要があります。つまり、ぶっちゃけと摺り合わせです。

*9:この計画や手順についての指南書をよく知りませんが、私が以前、ロールプレイによる交渉が主要なゲーム体験(=そのシナリオの一番面白いところ)であるところの古い公式シナリオを回すことになったとき、PCの立場やNPCの立場と関係する事柄について何度も繰り返し印象づけたり、プレイヤーが自分のキャラクターを物語の中に位置づけているかどうかを診断するための小さな質問をシナリオの中に忍ばせたりしながら「プレイヤー自身が考えて全てをやり抜くこと」と「道を踏み外さないこと」を両立させるように努力しました。またPCの設定を積極的に取り入れたり、演出上のメリハリをつけるなどして物語に「参加すること」に対してテンションが上がるように工夫もしました。

スカイノーツのダイスボットをどどんとふに入れてみた

経緯

 「公式サイトにて配布されているダイスボットを改良してみたので、自鯖で実験して欲しい」と友人に言われたので実験してみることにしました。私は『歯車の塔の探空士』は(現時点で)持っていないんですが、導入してみようという人の参考になるかも知れないので、やり方を紹介しようと思います。
 飽くまで「私はこのやり方で上手くいった」というだけなので、やってみようと思う方はご自分の責任でよろしくお願いします(笑)

要約

public_html >> DodontoF >> src_bcdice を開いていることを前提とする。

(1)diceBotにSkynauts.rbを入れる。
(2)configBcDice.rbに「Skynauts」を追加する。
(3)bcdiceCore.rbの最後ら辺にある「when /(^|\s)None$/i, ""」行の直前に以下3行を挿入する。

when /(^|\s)(Skynauts)$/i
 require 'diceBot/Skynauts'
 diceBot = Skynauts.new

(4)src_rubyにフォルダを変えて、config.rbを開き、「歯車の塔の探空士」を追加する(DodontoFまで一旦階層を遡る)。

オレンジ色はフォルダ名、緑色はファイル名、カギ括弧で括ったものは文字(テキスト)を表す

前提

  • どどんとふの自鯖をもっている(自分でサーバを立てるか、レンタルサーバー会社と契約してどどんとふのコピーをアップロードできている)
  • フォルダ(ディレクトリ)の階層構造について理解している(パソコンの基礎知識レベル)

.rbの中身書き換えについて

configBcDice.rb、bcdiceCore.rb、config.rbという3つの.rbファイルを書き換えないといけません。
書き換えるには、.rbファイルを右クリックして「プログラムから開く」を選択します。Windowsなら「メモ帳」など、何かしらのテキストエディタを開きます。
ファイルの下の方に、TRPGのシステム名っぽいものが羅列してあることに気づくはずです。
configBcDice.rbは英語名で書かれています。
bcdiceCore.rbではwhenから始まる数行にわたって、そのシステムで使うダイスボットやカードセットについて定義しています。
config.rbでは日本語名で書かれています。あいうえお順になっているはずです。
要するにこれら3つのファイルの中身を空気を読んで追記する作業をします。

その他

公式サイトでDLできるSkynauts.txtはテスト用のファイルだそうです。

ドラクルージュにおける「耽美」について

 耽美がよく分からないから『ドラクルージュ』ができないという趣旨の意見に共感しつつも、「でも、ドラクルージュってそもそも『耽美』なの?」という疑問があるわけです。恐らく「耽美、耽美」と仰っている方のほとんどが、美術史における耽美主義の文脈で「耽美」という言葉を使っているわけではないと思いますし、必ずしも日本のサブカル史における耽美系(JUNEとか)を踏まえているわけでもないでしょう。
 『ドラクルージュ』が耽美ゲーであるというのは、ルールブックのルールパートには特に書いてあるわけではありません。「耽美」という単語はリプレイパートのプレイヤー発言に見て取ることができますが(例えばP15)、「このゲームは耽美をやるゲームです」などとはどこにも書いていないのです。
 なぜ「耽美」という言葉が一人歩きをしてしまっているのか、よく分かりませんが、『ドラクルージュ』という新しいゲームの世界観を一言で表現する単語として冴えているように感じます。「耽美」という単語が、ある種の方向性や関連した作品を想起させつつも、多義的で曖昧ゆえに、創作意欲を掻き立て、魅力的にみえます。インコグ・ラボの社長さんもトークショーなどで積極的に「お耽美」という表現を使っていたと記憶しています。
 僕はこのような、ルールブック等では言明されていないにも関わらず、ゲームの雰囲気を決定づける要素として、ゲームを遊ぶ人たちによって広められた言説や、プレインググループ内で形成された文化のことを、メタ・フレーバーと呼んでいます。その上で、メタ・フレーバーと対比させるための概念として、実際にプレイヤーがロールプレイをする時に参考にし、GMがシナリオを作る時に参考にする言明された事項を置きます。これをロールプレイ・アジェンダと呼ぶことにします。
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 『ドラクルージュ』において「耽美」がメタ・フレーバーならば、ロールプレイ・アジェンダは「騎士の三つの誓い」です。すなわち「自身を律さねばならない、民草を守らねばならない、堕落を許してはならない」です。

システム メタ・フレーバー ロールプレイ・アジェンダ
ドラクルージュ 耽美 騎士の三つの誓い
ダブルクロス 中二病 ロイス/タイタス
パラノイア ディストピア 幸福は義務

 他のシステムと並べてみるとこんな感じでしょうか。異論はあると思いますが、例えばの話です(ゲームサークルによってメタ・フレーバーが違うことだってありますからね)。*1
 メタ・フレーバーは、そのシステムについて知らない人に対してカタログ的に説明する場合に威力を発揮します。特に今までTRPGをやった事がない人にシステムを紹介する際に意味のあるタームです。しかし、ちゃんとシナリオ作りたいなとか、ちゃんとロールプレイしたいなと思っている人にとっては、曖昧過ぎて意味不明なタームになっているのです。
 このようにメタ・フレーバーは、ルールブックを熟読しなくても、ゲームの方向性を掴む上で有効な手立てです。しかし、ルールブックを読み始めると、「このシステムを使って、どうやってメタ・フレーバーを実現すればよいのだろう?」という疑問に辿り着くのです。例えば「耽美にするにはどんなシナリオを書けばいいのか」「耽美とはどういうロールプレイのことか」と考えることです。
 これがメタ・フレーバーによるロールプレイ・アジェンダの侵蝕です。しかし先ほど説明した通り、ルールブックをよく読めば、『ドラクルージュ』は字義通りの意味で「耽美」を目指したシステムではないことが分かります。
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 「耽美」というスローガン(?)は、シナリオやロールプレイの目標として位置づけられるわけです。『ドラクルージュ』というシステムがどういう遊び方をするゲームなのかが十分に理解されていないうちは、影響力の強いメディアに影響され、メタ・フレーバーによってロールプレイ・アジェンダが侵蝕されます。しかし、ルールブックの分析が進み、一定の共通理解が得られるようになると、システムが想定しているロールプレイ・アジェンダ*2が浮き彫りにされ、ルールブックに書かれている事と、そうでない事の境界線がはっきりするようになります。
 



 さて、ここまで説明をして「ちょっと違うんじゃないか?」とお思いの方もいらっしゃるかもしれません。確かに、フレーバーの話と、ロールプレイの話を対比させるのはおかしな話です。敢えてそうしたのは「耽美って何をするのか分からない!」という疑問に答えるためでした。ここで新たに「騎士の三つの誓い」をプレイすることと、「耽美」に何の関係があるのかという新たな疑問が登場するでしょう。
 結論から言いますと、何ら関係ありません。先ほど証明してみせたように、そもそも『ドラクルージュ』というシステム本体は耽美ゲーなどではないからです。ごめんなさい、夢を奪うような事を言ってしまって……。でも耽美擁護派のみなさん、安心してください。メタ・フレーバーではない、ただのフレーバーは残ります。ルールに明記されているフレーバーです。
 ドラクルージュは、[行い]の名称をはじめ、各種ゲーム用語が非日常的で詩的な雰囲気をもっています。[行い]のフレーバーや、経歴表の文章も、心揺さぶる物語を想起させるに足る内容となっています。セッション中にこれらの言葉を発することで、場の雰囲気がドラクルージュの雰囲気になるように方向付けられます(宣言なのでルール上、そう発言しなければならないわけです)。『ドラクルージュ』はプレイヤーの「発言する」「発言を聞く」というプレイを通して、個々のプレイヤーの創作意欲が刺激され、ドラクルージュ的なお話を考えたくなるように誘導している仕掛けになっています。創作的なロールプレイをあまりしないプレイヤーであっても、少なくともルールに基づいて、フレーバー付きの言葉を「発言する」ことで、無自覚にも、ドラクルージュらしいフレーバーを振りまくことに貢献することになります。リプレイパートのP15でプレイヤーAが「みんなして耽美ですね!」と発言していますが、キャラメイク時に経歴を振ってキャラが出来上がった過程の中での発言です。
 強いて言うなら『ドラクルージュ』は耽美にするゲームではなく、耽美になるゲームであり、その辺はシステムが保証しているというわけです。しかし、そのシステムの一部にプレイヤーが組み込まれているため、「耽美って何だろう?」と考えさせられてしまうのです。
 だからまず「ドラクルージュはプレイヤーに耽美であることを求めていない」という認識に立つことが大切です。これで「耽美なんだからエロくていいよね」みたいな過激派を撃退できます。とは言え、雰囲気は大事です。結局のところ耽美推進派は「雰囲気壊さないでね」「無粋なことを言わないでね」という要請を「耽美にやりましょう」に込めているのであって、「耽美」の歴史的意味や、近代主義に対するアンチテーゼとしてのチョメチョメに興味があるわけではないのです。

*1:余談ながら、「冒険者」という立場は「酒場」「依頼」「報酬」「戦闘」といった具体的なひとまとまりの行動様式を想起させますが、メタ・フレーバーの一種です。具体的に何を意識してロールプレイをすればいいのかが欠けているからです(cf.よくあるグダグダな酒場プレイ)。これに対する、「報酬、経験値、身の危険」というロールプレイ・アジェンダは非常に優れています。しかし、しばしば彼らは金銭による報酬以上の、名誉だとか、ロマンを求めて冒険に出かけることもあります。TRPGプレイヤーは魅力あるシナリオに出会った時、思いがけない決断をすることがあります。そういう意味で「耽美」というロマンは心の片隅には置いておいた方がよいキーワードなのかも知れません。

*2:ドラクルージュは、キャラクタークラス(血統と道)によってロールプレイ・アジェンダのディテールが変化します。基本的には「騎士」という点で同じなのですが、血統や道によって立ち位置が変化し、それらに応じたロールプレイをすることが推奨されます。また「騎士の三つの誓い」のひとつは「己」、ひとつは「民草」、ひとつは「堕落」です。このうち「民草」と「堕落」はゲームマスターたるDRが演じるわけです。守るべき民草と、許してはならぬ堕落を描くのが究極的にはDRの仕事というわけです。