lib14's TRPG library

TRPGに関するメモや随想など

要約・忙しい人のための馬場講座

本稿について

本稿では「馬場秀和のマスターリング講座」のエッセンスを要約する。豊富な具体例などは省いて、要点のみをまとめる。今の時代に合わない表現などは省いているし、要約者(私)が言葉を補って要約している部分も多いので、詳しく知りたい方は原文を読んで欲しい。なお、この記事に関しては常体で書くことにする。

馬場のマスターリング講座の対象者

 「馬場のマスターリング講座」(以降、馬場講座)は初心者GMがマスターリングの具体的な方法論を学ぶための教科書ではない。よく誤解されるが誤りである。馬場講座は中級者GMがより良いTRPGライフを送るための精神論が書かれている啓蒙書である。
 TRPG歴が数ヶ月~10年未満で、「そろそろTRPGに飽きた」とか「何か最近、面白いと感じなくなったなあ」とか「マスターリングが上手くいかないんだよな」と思っている人が、頭の中を整理するのに適したテキストである。

GMはこうあるべき(要約・意訳含む)

 何が正しいのかちゃんと自分の頭で考えろ
 うまくいかなかったら振り返って評価・分析・改善しろ
 できるだけ多くのシステムを経験しろ(少なくともPLで)
古今東西あらゆるエンターティメント作品に可能な限り幅広く接しろ
 ルールブックをちゃんと読め(世界設定も含めて)
 プレイヤーがやりたがっている事を知るためによく相談しろ
 そのシナリオ、そのシステムのどこが面白いのかをちゃんと自覚しろ
 英語苦手とか言っている場合か、洋ゲーもやれ、視野を広く持て
 オリジナルストーリーとか、オリジナル世界設定とか、恥ずかしいからやめてくれ
 TRPGのゲーム性は、PCをコマとして扱うようなシミュレーションゲームと違う
 TRPGのロールプレイは、キャラになりきって好き勝手騒ぐ事じゃない

馬場の思想

 馬場講座はTRPGの出版点数が冷え込んでいた時期に書かれたもので、馬場の思想の根底には「日本のTRPG業界を何とか再建させたい」という思いがあった。その使命感から、TRPG人口を増やすために、途中でやめていくユーザ数を減らす必要があると考えた馬場は、中級者ユーザへの啓蒙を思い立った(新規参入ユーザを増やすという戦略を彼はとらなかった)。
 馬場は、スポーツが汗をかくから楽しいように、TRPGも上達に向けて努力するから楽しいのだと説く。そう言うと如何にもストイックでお堅い印象を受けるかもしれないが、馬場がイメージしているのは、もっと好奇心旺盛で、何にでも興味を示し、積極的で、自分が「イイ!」と思った事に対して正直な、気の良いベテランプレイヤーである。そういう探求心があって、良いものをトコトン追求していこうという姿勢を持たないと、TRPGは長続きしないのだと言っている。
 第一章と第二章では、自らのTRPG経験に基づき、馬場自身が正しいと自信を持っている基準に基づいてTRPGシステムやシナリオを評価する方法を具体的に述べている。馬場によれば、当時TRPGは「何をやっても自由」と喧伝されることが多かったとされる。それに対して「正しい/間違っているの分別がある」と大見得を切って主張するのはインパクトがあった事だろう。
 大胆不敵、自信過剰、当時のTRPG界の抱える問題の原因に対して首尾一貫して攻撃的な態度をとったことは、彼の信奉者にとって狂信的魅力を放っただけでなく、彼の批判者に対しても彼に釘付けにさせる原因になったことだろう。ともかく馬場は議論すべき議題を設定し、人々に問題意識を植え付けることに関心を持っていた。馬場の目的は、馬場の信奉者を増やすことなどではなく、人々を「TRPGとは何か」という哲学を思索する哲学者に仕立て上げることなのである。そのためにまずは、自らが強烈な思想をぶつけたに過ぎない。

上達とは

1. ゲームマスターから与えられた目標達成に近づくこと
2. PCに期待された役割分担をきちんとこなすこと
3. PCの言動が背景世界設定やキャラクター属性と整合していること
4. ゲームジャンルや狙いの再現に向かうこと

■システム選択の基準
1. 方向性(ヒーロー指向と疑似体験指向、違う指向性を持ったPLを集めるな)
2. 役割分担(役割意識の薄い初心者が相手ならクラスシステムのあるRPGを選べ)
3. 背景世界(詳しくは後述)
4. ジャンル(大した問題じゃないから苦手意識を持つことはない)
 ここでいう背景世界とは雰囲気や演出のことではない。意思決定のための選択肢を予め絞り込むための情報(例:ファンタジー世界の住人はパソコンが使えない)である。ボドゲではルールで規定されているが、TRPGでは背景世界で大雑把に規定される。優れた背景世界は、PLの意思決定をどれだけ支援できるかで評価される。

シナリオ作成

 シナリオとはストーリーではない。シナリオ作成とはゲームデザインである。シナリオはストーリーとデータを軸に作成するものではなく、目標と障害を軸にするものである。目標を設定する際、シナリオのいわゆる「依頼」だけでなく、馬場は、PCの動機やPLのやりたい事を踏まえて、シナリオを考えることを示唆している(「踏まえて」というのは必ずしも依頼と動機を合致させるという意味ではない。意図的に矛盾を楽しむセッションハンドリングもあるだろう)。
PLが目標に基づいて自らの意思で決断した結果がきちんと反映されなければゲームとは言えない。ゲームの本質は意思決定なので、PLの意思決定を束縛したり、意思決定の機会を与えなかったりしてはならない。そういうことだから、シナリオの骨格づくりのためにストーリーを借用するが、作成の過程で借用したストーリーは捨て去って、ゲーム要素のみを抽出する。
借用するストーリーは名作、代表作と呼ばれるような娯楽作品にすること。芸術作品、文芸作品、GMが考えたオリジナルストーリーでは良いシナリオができない。
 目標達成を難しくするための障害、意思決定を複雑にするための資源管理、意思決定を適切に行わせるための情報はシナリオに必要な要素である。
 シナリオ作成の手順は以下の通りである。
1. 基本ストーリーの作成(ゲーム要素を考えるための足がかりとして利用するだけ)
2. ゲーム要素の明確化(基本ストーリーからゲーム要素を抽出する)
3. シナリオの構造化(シーンの定義。基本ストーリーは解体される)
4. データや設定の準備(セッションを進める上で必要な情報を用意する)
5. ゲームバランスの調整
 

望ましい初心者対応

 初心者を見下した態度をとるな
 初心者を特別扱いするな
 礼儀正しくあれ
 演技やノリを強制するな
 役割分担を明確に

TRPGの発展にとって誤った有害な考え方をする人の特徴

1. 本や雑誌に書かれていた見解を、無批判に(自分の頭で考えずに)ただ繰り返しているだけの愚かな人
2. 自分のやり方、自分の好みを主張するだけで、何ら「自分の主張には客観的な正当性があるか」「自分の主張は、RPGの発展に寄与する有意義なものであるか」という内省を行わない無責任な人
3. 特定のRPG、特定傾向のRPGしか知らず、そこでの経験だけに基づいてRPGの一般論を主張する視野の狭い人。
4. 単に他人の意見にケチをつけるのが好きなだけで、何ら建設的な議論をする気がない幼児的な人。
5. 読解力、理解力、表現力のいずれか、あるいはその全てに致命的な欠陥があり、そもそも他人との議論や意見交換に向いてない人。