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価値六相(ヴァリュー・チャート)
TRPGの価値を構造的に把握するなら、6つの相によって捉えることができるだろう。すなわち、[攻略性][役割性][参加性][創造性][体験性][遊戯性]の6つである。これらは互いに関連しながら、全体としてTRPGの価値を形成している。
攻略性 最適解形成を楽しむこと(決断と勝利)
役割性 自己効能感を楽しむこと(機能と演技)
参加性 体験の共有を楽しむこと(機会と仲間)
創造性 唯一無二性を楽しむこと(偶然と独創)
体験性 未知の体験を楽しむこと(興味と学習)
遊戯性 行為の結果を楽しむこと(操作と影響)
プレイヤーによって、6つの相のうち、どの相を重視しているかが異なるだろう。また同じプレイヤーでもその日の気分や、遊ぶシステム、集まったメンバー、シナリオなどによって、重視する相が変化することもある。
よくトラブルの原因と考えられる、同じ卓に参加したプレイヤーの目的がバラバラである状態とは、各プレイヤーの重視する相の相違として説明できる。例えば「攻略性は重視するが参加性を軽視するプレイヤーA」と「参加性は重視するが攻略性を軽視するプレイヤーB」が同卓した場合、プレイヤーAはちゃんとルールを覚えてくれないプレイヤーBに憤りを覚えるし、プレイヤーBは、プレイヤーAに「キミは攻撃しないでくれ」という理由を自分が知らないルール用語で早口で説明されたせいで、セッションをつまらないと感じる。
ここで、6つの相のうち、ほとんどの場合において特定の相に偏った嗜好を示すプレイヤーを[棲み分け型]と呼び、状況に応じて嗜好が変わるようなプレイヤーを[摺り合わせ型]と呼ぶことにする。[棲み分け型]のプレイヤーは卓募集やサークルメンバー募集の段階で、自分の嗜好とマッチしているかどうかを診断することが大切だし、[摺り合わせ型]のプレイヤーはセッション中に、このセッションがどの方向を向いているのかを診断しながら調整していくことが大切だ。なお、この分類は実務的な分類であり、この両者を厳密に区分けする基準を設けない。したがって、どちらともいえないプレイヤーも存在し得る。
いずれにせよ、本稿は、トラブルを回避するため、自分の嗜好と卓の方向性を診断し、棲み分けや摺り合わせを行う際の枠組みを提供することを目的の1つとする。
価値六相が満たされる具体的場面の例
攻略性
- 敵に勝つ
- ギリギリの戦いを強いられる
- 望ましいエンディングを迎える
- 情報や資源が複雑で考えさせられる
役割性
- 役に立つ
- 各PCが個性を発揮する
- 自分が他のPCに必要とされる
- 各PCが重要な役割を担わされている
参加性
- 宣言をする
- ダイスを振る
- 話されている内容が理解できる
- 仲間とセッションの思い出を語る
創造性
- 意外な結果になった
- オリジナリティが出せた
- 他と同じような結果にならなかった
- そのメンバーでしか味わえない体験になった
体験性
- 世界観を味わう
- 臨場感ある演出に直面する
- 新しいサプリメントを使う
- 普段遊ばないメンバーと卓を囲む
遊戯性
- PCは自由に行為宣言できる
- 行為の結果として状況が変化した
- シナリオやGMを出し抜くことができた
- 他のプレイヤーをあっと驚かせるプレイができた
価値六相の位置関係
なぜヴァリュー・チャート(VC)を並列せずに、図のような六角形の配置にしたのかについて説明が必要だろう。
VCの上半分を見て欲しい。[遊戯性][攻略性][役割性]の3つは、いわゆるゲーム性、あるいは問題解決に属する価値であり、一方で[体験性][創造性][参加性]の3つは、物語体験に属する価値であることが見て取れる。
あるいは左下側に注目して[遊戯性][体験性][創造性]は好奇心や遊び心に属する価値であるのに対し、残る右上側の[攻略性][役割性][参加性]は部活のような真面目な価値に属する。
また左上側に注目して[攻略性][遊戯性][体験性]の3つは、『マリオブラザーズ』のようなコンピュータゲームが得意とする分野であるのに対し、残る右下側の[役割性][参加性][創造性]は他のプレイヤーの存在を前提としたソーシャル要素を含む価値である。
このように、距離の近い相を一纏めにすると、大雑把にTRPGの価値を分類することができる。「問題解決/お話作り」、「フリーダム/ストイック」「コンピュータ/ソーシャル」といったところだろうか。本稿の目的は自分の傾向や卓の向かっている雰囲気を診断するためのツールを提供することにあるわけだから、厳密性よりも使いやすさを重視する。よって、大雑把で構わないというのが私の立場である。